環境音楽の意味
- ブライアン・イーノが提唱した、エリック・サティ「家具の音楽」から影響を受けた音楽ジャンル。アンビエント・ミュージックとも呼ばれ、家具のように日常生活を妨げない音楽をさします。
- BGM(バックグラウンドミュージック)の一部。川や雨といった自然の音、カフェ・街角などの雑音が該当します。
学術的な・専門的な話をする際の「環境音楽」は①の意味です。ブライアン・イーノはエリック・サティの「家具の音楽」から影響を受け、環境音楽(アンビエント・ミュージックとも呼ばれる)を作曲しました。一方、音楽に詳しくない人の想像する「環境音楽」は②の意味で、自然や日常の環境から切り取ったような音を示していることが多いと思われます。
英語「アンビエント・ミュージック」の意味
アンビエント・ミュージックとは、作曲者ないし演奏者が意識的に聴かせようとしていない音楽をさします。環境音楽①と同じ意味で用いられるケースが多いものの、別の意味として定義される場合もなくはありません。ブライアン・イーノが「Ambient 1」から始まるアンビエント・ミュージックのシリーズをはじめたため、これらの曲に似ている楽曲をアンビエント・ミュージックとしてとらえるケースもあります。
環境音楽のおすすめCD・名盤
Ambient 1: Music for Airports / ブライアン・イーノ
「アンビエント」をタイトルに用いたアンビエント・ミュージック提唱者、ブライアン・イーノの作品です。ニューヨークのラガーディア空港で実際に流されてい時期もあり、「家具の音楽」を実践させた楽曲といえます。ただし、ブライアン・イーノの作風すべてがいわゆる環境音楽ではなく、「Another Green World」のようなにぎやかなアルバムもある。
Music For Nine Post Cards / 吉村弘
吉村弘は日本の環境音楽黎明期から活躍しているアーティストです。9枚の短いフレーズが書かれたポストカードをもとに本作品は作られています。短いフレーズを繰り返したり重ねたりする環境音楽特有の手法が広く採用されているので、環境音楽の特徴つかみやすいでしょう。
ムクワジュ / ムクワジュ・アンサンブル
高田みどり、定成庸司、荒瀬順子をメンバーとした、久石譲プロデュースのアンサンブルグループ。久石譲はファーストアルバムのみをプロデュースしたがグループ自体もセカンドアルバムをリリースした後に解散しています。高田みどりの「鏡の向こう側」も環境音楽として有名なのでこちらも参考にしましょう。
Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990 / Various Artists
さきほど紹介した久石譲や吉村弘のほか、坂本龍一、細野晴臣など、多くの著名なアーティストの音楽を環境音楽という枠組みで集めたコンピレーションアルバムです。タイトルにあるとおり1980年代の日本における環境音楽を集めています。各アーティストの環境音楽をまとめて聴けるので、初心者にもおすすめな1枚です。ストリーミングでは10曲分しか聴けないのが惜しいところです。
原曲『家具の音楽』は環境音楽でない!?
原曲『家具の音楽』とは
ブライアン・イーノらによって発展してきた環境音楽は、エリック・サティの「家具の音楽(Musique D’ameublement)」という概念にもとづいて作られているものが多くあります。しかしエリック・サティが作曲した『家具の音楽』というアルバムは、わたしたちがイメージする「家具の音楽」とは異なるテイストを持っているようです。楽曲としての『家具の音楽』は下記アルバムの3〜5曲目にあたるので聴いてみてください。
| 原題 | 邦題 |
|---|---|
| Tenture de Cabinet Préfectoral | 県知事の私室の壁紙 |
| Tapisserie en Fer Forgé | 錬鉄の壁紙 |
| Carrelage Phonique | 音のタイル張り舗道 |
これら3曲はいままで紹介してきた環境音楽とはやや異なる傾向をもった音楽だと思いませんか。楽器の数や音の強弱、メロディーなど環境音楽と呼ぶには少し複雑であったと思います。「県知事の私室の壁紙」は特にその傾向が強く見られるはずです。それもそのはず、今聴いてもらった『家具の音楽』と概念としての「家具の音楽」には大きな乖離があると考えられています。
『家具の音楽』は紹介した3曲に加え「ビストロにて」「サロン」の2曲を追加した5曲で構成されています。そして楽曲を作曲された順番に置き換えると次のようになります。
- 錬鉄の壁紙
- 音のタイル張り舗道
- ビストロにて
- サロン
- 県知事私室の壁紙
これら5曲は次のような経緯でつくられています。
■交響的ドラマ「ソクラテス」のための習作 1917-1918
・錬鉄の壁紙
・音のタイル張り舗道■マックス・ジャコブの戯曲ための幕間音楽 1920
・ビストロにて
・サロン■ユージン・メイヤー夫人のための委嘱音楽 1923
・県知事私室の壁紙【TEXT】『家具の音楽に潜む誤解』の発言録 ~ エリック・サティ エキセントリック・ピアノ&トーク・ライブ Vol.3よりより
『家具の音楽』の本当の意味
「ビストロにて」と「サロン」は、マックスジャコブの画廊で披露されたイベントの間で流された音楽です。幕間で音楽を聴こうと静かになった観客へ向けてエリック・サティは「いつも通りにおしゃべりを続けるんだ。聴くんじゃない!」と怒ったといいます。「ビストロにて」と「サロン」はBGMとして聴いてほしいからあくまで普段どおりの生活を楽しんでほしいという意図があったのでしょう。
この展開のみを聴くと彼はBGMとしての音楽を作りたかったように聴こえますが、実はむしろBGM化してしまう音楽に危機感を抱いていました。
「ビストロにて」と「サロン」はアンブロワーズ・トマとサンサーンスという2人が作曲したメロディを使っているのですが、エリック・サティはアンブロワーズ・トマもサンサーンスも忌み嫌っていました。そのため対して評価していいないあてつけのようなメロディーを「ビストロにて」と「サロン」で使い、観客に聴かせたことになります。
また、マックスジャコブの画廊にて渡されたエリック・サティからの要望書には次のように書いてあったようです。
柴野:『音楽に気を取られずにあたかも音楽などが存在しないかのように休憩時を過ごしていただきたいと思います。この音楽は個人的な会話とか飾り絵とか皆様の中でかけておられる方もいればかけておられない方もいるロビーの一室と同じ程度の役割しか果たしていないのですから』
【TEXT】『家具の音楽に潜む誤解』の発言録 ~ エリック・サティ エキセントリック・ピアノ&トーク・ライブ Vol.3よりより
音楽が個人的な会話や飾り絵程度の役割しか果たさなくなったと読み取れないでしょうか。音楽がBGM程度にしか聴かれないことに憂いたエリック・サティは、画廊にてあえて曲を聴かないように注意書きすることでむしろその場にある音楽の存在に気づかせたかったと考えられます。
音楽を正面から聴いてほしいと思いつつ、BGMとしての役割しか果たさなくなったことに対しての警告を『家具の音楽』の楽曲群で示していると考えられます。しかしブライアン・イーノをはじめ後年のアーティストは、概念としての「家具の音楽」のみに注目しむしろBGMとして使用されるような音楽を作っていきました。
概念「家具の音楽」を発展させた結果
エリック・サティが『家具の音楽』以前に作曲したジムノペディ(Gymnopédies)をさきほど紹介したブライアン・イーノの「Ambient 1: Music for Airports」と聴き比べてください。似ている点が多くいですよね。つまり楽曲としての『家具の音楽』は無視され概念としての「家具の音楽」のみが用いられていると考えられます。
環境音楽とこれから
環境音楽は、BGMとしての意味の他にエリック・サティ提唱の「家具の音楽」から発展したジャンルという意味もあります。スピーカーの前にたって聴かないという意味で環境音楽は一定の人気を獲得しましたが、はたしてこれはあるべき音楽の姿なのでしょうか。
作業中のBGMはリラックス効果があったりドラマやゲームの挿入歌は感情移入を促進してくれたりするため、BGMとしての音楽に意味がないわけではありません。反対に、数十年前からは音楽に動画がつきミュージックビデオとしてプロモーションされるケースが増えました。では、大量の情報をいっぺんに手に入れられる豊かな時代に、わたしたちの心はどれほど豊かになれるのでしょうか。
参考にした記事や本
- 【TEXT】『家具の音楽に潜む誤解』の発言録 ~ エリック・サティ エキセントリック・ピアノ&トーク・ライブ Vol.3より
- 環境音楽の再発見・目次/バレアリック、アンビエント、シティ・ポップ、細野晴臣、グライム、ニューエイジ、環境音楽











